「白檀の刑」 莫言
白檀の刑 莫言 中公文庫 2010.9. |
以前から読んでみたかった莫言の小説が文庫化したので早速読んでみました。在中国作家の現代小説を読むのは初めてです。
舞台は清朝末期、1900年の山東省高密県。鉄道を敷設するドイツに対し、民衆を率いて反対運動を起こした男が逮捕され、極刑に処されることとなる。物語は、地方の伝統芸能である猫腔の調べにのせて、その様子を5人の視点から描き出していく。
趙甲
長年北京で首席処刑人を務め、地元に戻ってきたところで、孫丙の処刑を任され、その誇りにかけて一世一代の極刑をてがける。
孫丙
元々は猫腔の役者。ドイツ軍に対し強い恨みを持つようになり、民衆を率いて反乱を起こす。
銭丁
高密県の知事。
眉娘
孫丙の実娘であり、趙甲の義娘、そして、銭丁の愛人。
小甲
趙甲の息子で、処刑の手伝いをすることになる眉娘の夫。
作品は3部構成。第1部は4つの章から成っていて、4人の登場人物それぞれが語り手となって、孫丙の処刑を目前にしたそれぞれの胸の内を語る。第2部では、神の視点となる第3者の語り手により、処刑のきっかけとなった事件のあらましが丁寧に描かれ、最後の第3部では再び5人の語り手により、実際の処刑の様子が描かれていく。
面白すぎる!
あまりの面白さに上下巻合わせて文字通りの一気読みでした。
全てが濃くパワーにあふれた作品で、世間狭っ!な感じの強引な人物設定も全く気になりません。
この作品で描かれる人間の生き様というのは時空を超越して読み手の心に訴えかけてくる力強さにあふれていたように思います。1000年後の人が読んでも抜群に面白い小説だと感じられる作品なのではないでしょうか。
それぞれの入り乱れる思いを一度読ませておいてから、客観的に事件を描き、最後に再び一人称語りに戻すというちょっと特殊な3部構成は、ちょっとあざとすぎるのではないかとも思うんだけど、物語を伝える上で最大限の効果をあげるように書かれていて、とにかく語りが上手い。
こういう語りの上手さは、小説というメディアでしか堪能することができないので、漫画や映画では決して味わうことのできない最高のエンタ―テイメントを味わうことができたように思います。
物語そのものの面白さに加えて、それぞれのメインキャラクターに対する印象が、各自の一人称語りと神の視点による三人称語りを通して、それぞれに二転三転していく、心理劇としての面白さも抜群。そんな中、芯のある力強さにあふれるキャラが多い中、人間としての弱さを見せてくる銭丁が最も印象に残ったかなぁ。この人が第1章と最終章とで一番印象が変わったし。
あと、熱い男たちが揃う中、小甲が何気に良い味を出してます。彼が語り手となる章はある意味一番読み応えがあったのではないかと。
あと、作中、様々な芸術的に残酷な処刑の描写が登場するのですが、とりわけ途中に出てくる陵遅の刑のインパクトはかなりのもので、電車内だったにもかかわらず、読みながら思わず「うぅっ!」と声をもらしてしまうほど。罪人の体に刀をあて500回目で死に至らせるよう少しずつ・・・。思い出すだけでもゾクゾクします。
でもってクライマックスの白檀刑、これも刑そのものがかなりのインパクトがあるんですが、ここはとにかく孫丙が凄い。もうボキャ貧な僕には、凄いとしか言いようがない。こんなに鬼気迫る勢いを小説で感じられることはそうそうないですよ。
作品を全体を彩っている猫腔の調べは作者の想像の産物ということなんですが、それを含めて、とんでもない小説を読んでしまったという興奮が抑えられない作品でした。
読み終えた後は、シェイクスピアの悲劇をフルで観終えたような充実感があり、拍手喝采のスタンディングオベーションをしたくなることは必至。
莫言、他の作品も是非読んでみたいぞ!ニャオニャオ
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