「馬を盗みに」 ペール・ペッテルソン
馬を盗みに ペール・ペッテルソン 白水社EXLIBRIS 2010. 12. |
ノルウェーの作家による40以上の言語に翻訳されているというベストセラー。このところ北欧が気になることもあって読んでみました。
ただし、これ原典からではなく英訳版からの邦訳だそうで、英訳版は作者もお墨付きらしいけれど、そこがちょい残念。
1999年の冬のノルウェー、妻を亡くし、東部の小さな町へと移り住んだ老いた男が父と過ごした最後の夏の日々に思いをはせる。
1948年の夏、15歳の主人公は父と2人で夏を過ごすためにオスロからスウェーデンとの国境に近い田舎へとやってくる。あるとき、近くに暮らすヨンから「馬を盗みに行くんだ」と声をかけられ、2人は近くの農場へ忍び込んで馬を拝借しに行く。ところが、大自然を満喫して帰宅した主人公は、父からヨンの家で起こった事件のことを聞かされ、やがてヨンは町を去ってしまう。
老いた主人公はこの夏を振りかえりながら、やがて、失踪した父の秘密が知っていく・・・
ものすごい面白いってわけでもないんだけど、渋い味わいのある作品でした。
北欧ものって小説でも映画でも、自然の美しさとはうらはらに体に染み付いてしまってどんなに頑張っても拭いきれないような重さに溢れている作品が多い印象なんですが、この作品も例外ではなく、なかなかにズシリとしておりました。
冒頭にかなりショッキングな事件が語られて、そのエピソードを中心に物語が動くのかと思いきや、そこからさらに第2次大戦中のエピソードに移っていって、主人公の父親の失踪をめぐる物語へと展開していったので、序盤は着地点の読めないストーリーを結構楽しんで読むことができました。
回想されるキラキラと輝く夏の思い出(THE思春期なドキドキの場面も)とその後の空虚さと孤独さを抱えた過ごしてきた老人が過ごす冬との対比もなかなか面白いのですが、どちらの場面でも自然の描写がなかなか美しいのが印象に残ります。
主人公の父の過去については、ラストに向けて、徐々に明かされていくできごとが運命のいたずらとも言えそうな現在の場面での再会につながっていて、それを受け入れられるのかどうかは別として、運命の輪が閉じられていくのはなかなか面白かったです。
この作品、戦時下のノルウェーがドイツ軍に占領されていたことが結構物語の中核となる背景になっていて、そのあたりの歴史的背景をほとんど知らない者としては、ちょっとつかみづらい部分もあったんですよねぇ。
その後調べたところ、駐日ノルウェー大使館のサイトが割と充実していて、第2次大戦中のノルウェーについて書かれたページがあるので、そちらを参照すると、作品の理解が深まると思います。
http://www.norway.or.jp/about/history/after1814/ww2/
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