映画「わたしを離さないで」
never let me go イギリス 2010 2011年3月公開 劇場鑑賞 |
好きな作家カズオ・イシグロの作品の映画化ということでとっても楽しみにしていた1本。
舞台は我々の世界とは違う、とある技術が発達した世界での英国。
寄宿学校ヘールシャムで学ぶキャシー(キャリー・マリガン)とルース(キーラ・ナイトレイ)、トミー(アンドリュー・ガーフィールド)の3人が自分たちに課せられた運命の中で、精一杯に生きていく姿を描く。
相変わらずあらすじを書きにくいお話ですが、今回の映画、この作品を映画化するのであれば多分最もベストな形の1つ。
イシグロ作品はとにかく語りの巧さで読ませるので、小説以外のメディアでそれを再現することができるのかとても不安だったのですが、「日の名残り」も良い作品だったし(初イシグロとの出会いは高校の頃にビデオで観たこの映画です)、こういう風に小説とはまた違った味わいで巧く映像化してもらえるのは非常に嬉しいですね。
冒頭でかなりはっきりとネタバレをしてしまった時はかなり驚いてしまったのですが、物語も時系列でコンパクトにすっきりとまとめていて、小説を読んだときに感じた世界観の設定を探っていくドキドキ感こそ薄れてしまっているけれど、限られた生を精一杯に生きる主人公達の姿が静かにまっすぐに描かれていて、鑑賞後に強い余韻の残る作品に仕上がっていたと思います。
映画では1人称の視点が使えないので、原作と割り切って映画は映画として一番効果的に主題が生きるように映像化してくれていたのではないでしょうか。物語の焦点がスパッと三角関係に絞られていたのも映画としては分かりやすかったですね。ただ、あまりに恋愛メインになりすぎてることに違和感があったのも事実なんですが。
あとは、原作で特に自分が気に入ってたエピソードがかなりカットされていたのがちょっと残念。カセットテープを探すくだりなんかタイトルと直結してくるところだから結構メインなエピソードだと思ってたんですけどねぇ。これと関連してノーフォークの噂もすっかり姿を消してしまっていたし。
映画を見ていて、彼らの運命に関するエピソードで特に印象的だったのは、現在の場面で、今ではどこもブロイラー方式になってしまっていると語る場面。本当に短い会話だったけれど、とても怖かった。
この映画の成功は主要キャスト3人の上手さによるところも非常に大きいと思ったのですが、若手注目株のキャリー・マリガンとアンドリュー・ガーフィールドの2人は言わずもがなですけど、3人の中では1人だけキャリアが抜きんでているキーラ・ナイトレイが見事にオーラを消して素晴らしいまでに主演を引き立てていたところに驚いてしまいました。てか、この3人の中では彼女だけ年齢も高いと思っていたけれど、そんなに変わらないってことにもビックリ。
アンドリューくんはいつ見ても良い演技を見せてくれるので今後の活躍が楽しみです。
キャリー・マリガンはマキューアンの「初夜」が控えていると噂されているのだよね。そちらも楽しみ♪
キャストでいうとあとはなんといってもシャーロット・ランプリング。素敵すぎる!!
原作ではこの環境に抵抗しない主人公たちの姿に洗脳の怖さを感じたのですが、映画の方は彼女達なりに精一杯抵抗してるように感じられる場面が多かったんですよね。原作と同じエピソードなんですけどねぇ。
原作も映画も色々と考えるきっかけを与えてくれる素敵な作品で、どちらも好きなのは、「日の名残り」と同じ。このクオリティで他の作品も映画化されないかなぁ。最近邦画の勢いが良いので、「浮世の画家」とかどうですか?
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コメント
こんばんは。
もうすっかりお邪魔した気になってしまってました^^;
流石に、ANDREさんは観ていて思ったこと、言いたかったことを
簡潔に過不足なく書いて下さってて、
カズオ・イシグロ作品のファンがこの映画を観た時の、正しい感想のように思えます。
本当に、小説の世界を変えることなく、巧く映画化してくれたと思います。
『浮世の画家』、これをあの小説の本質を変えずに映像化できるとしたら、
面白い作品になることでしょうね。
観る人をかなり選んでしまうとは思うけれど。
投稿: 悠雅 | 2011年7月27日 (水) 22時21分
>悠雅さん
コメントどうもありがとうございます。
ようやくこの記事を書くところまでたどり着きました。
イシグロ作品は映画化が難しそうなのに、
「日の名残り」もこの作品もとてもよく映像化してくれていて、
小説も映画もそれぞれの良さに溢れているのが
とても嬉しいですね。
次に何かを映画化するとしたら、
やっぱり日本で「浮世の画家」を、と思うのですが、
主人公のキャスティングからして難しそうです。
「夜想曲集」の中のどれかをオシャレに映像化しても
面白いものが出来上がりそうですね。
投稿: ANDRE | 2011年7月28日 (木) 23時37分