映画「イリュージョニスト」
l'illusionniste フランス 2010 2011年3月公開 劇場鑑賞 |
今年のアカデミー賞にて長編アニメ部門にノミネートされていて、どんな作品なのだろうかと思って調べてみたら、ジャック・タチの脚本をアニメ化したものと知り、是非観てみたいと思った1本。
舞台は1950年代。人々はロックバンドの公演に集まり、人気を失った年老いた手品師タチシェフは各地を転々とし、スコットランドの港町にたどり着く。パブで手品を披露していた彼がそこで下働きをしている少女アリスのために新しい靴を買い、手品でプレゼントを差し出したところ、彼女はタチシェフが願いを叶えてくれる魔法使いであると思い、町を出て彼について行ってしまう。
たどり着いたエジンバラで、アリスとともに芸人たちが多く暮らすホテルに滞在しながら職を探すタチシェフであったが・・・。
美しい。
ただ美しい。
わずかな台詞も全ていらなくてBGMだけでも全然かまわないくらいに映像だけで物語を見せてくれる非常に美しいアニメーションでした。やっぱりアニメは変に立体感のあるいかにもCGな作品よりも、こういう平面に書かれた「動く絵画」的なもののほうが好きです。
あぁジャック・タチだなぁと感じさせる場面も多いんだけれど、そのものずばりの「ぼくの伯父さん」が劇中映画として登場するところでは思わずニヤリ。
物語の方は田舎娘に良いように使われてしまった老手品師という感じではあるけれど、ユーモアに包まれながら描かれる「去りゆく者」の悲哀にギュッと胸をつかまれました。
手品師だけではなく、腹話術師やアクロバット兄弟たちもまた仕事を失っていき、慣れない仕事に手を出したり、悲観して命を絶とうとしたり決して明るい物語ではないけれど、老兵は去るのみ、ただの金づるでしかなかったとしても、次の世代に生きる若者たちに未来を託していこうというちょっと「グラントリノ」的な思いも感じられて、じんわりと心にしみいりましたね。ラストの寂しさは否めないんだけれどね。
彼がアリスに思いを寄せた理由もさりげなく明らかになるけれど、彼にしてみれば、アリスと過ごした日々こそが「魔法」だったのかもしれないんですよねぇ。ラストの手紙は、アリスに向けての言葉であると同時に、自身に向けて書いた言葉だったんだろうなぁ。なんてことを考えるとますます切なさで一杯になってしまいます。
ロックバンドの妙なテンションやら、洗車するシーンやら、アクロバットたちが看板作るシーンやら、料理を見てハラハラする手品師やら、デパートで宣伝するシーンやらユーモラスな場面も非常に愛らしくいつまでも心に残ります。
タチの脚本も良いのだと思うけど、このユーモアと哀愁が漂う空気を見事に表現したシルヴァン・ショメは本当に巧いです。
あと、映画のパンフが紙芝居のような仕様になっていて、表面いっぱいに映画の1シーンが印刷されていて、裏に解説などがついたバラの紙が封筒に入っているという素敵なものでした。こういう凝ったパンフ好きです。
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