« 映画「ランジェ公爵夫人」 | トップページ | 「ブラック・ジャック・キッド」久保寺健彦 »

2012年1月22日 (日)

映画「善き人」

Good

イギリス・ドイツ

2008

2012年1月公開

劇場鑑賞

2012年の劇場鑑賞1本目。とても良い映画なのに上映している劇場の数が少ないのが非常にもったいない。

舞台は第2次大戦中のドイツ。大学で教鞭をとるジョン(ヴィゴ・モーテンセン)はあるときナチスから呼び出され、かつて書いた安楽死に関する小説をヒトラーが気に入ったため、「人道的な死」に関する論文を書くよう依頼される。立場上断ることもできず、ユダヤ人の親友モーリスへの後ろめたさを感じつつ、ジョンは最終的にナチスへ入党することになってしまう。

やがてジョンは妻子を捨て、同居していた老いた母を故郷へと帰らせて、愛人との生活を始める。そんな中、ナチスによるユダヤ人への迫害が加熱していき・・・。

地味ではあるのですが、無駄のない脚本で、ヴィゴ・モーテンセンの見事な演技がストーリーに説得力を持たせていて、見応えのある作品でした。

冒頭、主人公が料理をしている場面から既にこの作品のテーマが示されていましたね。子供、妻、母、義父、みんなに良い顔をして結局全てが中途半端で誰のためにもなっていない。

それが家族の中で済んでいた時は良かったけど、彼がナチスと関わりを持ち始めてしまうと、事態は最悪な方向に進んでしまう。気づけば妻子を捨て、母を捨て、友人を捨て、そして、愛人だった新しい妻までを捨て、いつしかナチスの制服を身にまとった高官になってしまっている。

しかし彼には常に言い訳が用意されていて、「本当はそうしたかったんだけど、今回は無理だったんだ」とか言って全てを済ませてしまってるところが非常に可哀想であり、しかし、結構こういうことって日常的にあるよなぁと自分の痛いところをつかれるような感じもして、第二次大戦中のドイツという極めて特殊な状況を描きながら、普遍的なテーマを扱っているところが非常に面白かったです。こういう作品は後世にまで残りうるよね。

主人公自身、彼が悪い方向へ進んでいることに気づいていなくて(あえて目を背けて)、自分は他のナチスの高官とは違うのだと思ってるのだけど、そんな彼を咎めるかのように良心が音楽の幻覚を見せるというのが非常に面白かったです。

ラストシーン、引きの映像になったとき、どんなに彼が言い訳をしようとも、そこに映るのは収容所に立つ1人のナチスの高官でしかないということに、背筋がゾクっとして、多くのことを考えさせられる非常に面白い作品でした。

|

« 映画「ランジェ公爵夫人」 | トップページ | 「ブラック・ジャック・キッド」久保寺健彦 »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 映画「善き人」:

» 善き人/GOOD [LOVE Cinemas 調布]
英国の劇作家C・P・テイラーの舞台劇を映画化。ナチス政権下のドイツで、自らの小説がヒトラーに気に入られてしまったが故にユダヤ人との友情と、自己の保身との間で良心の呵責に苛まれる大学教授を描いたヒューマンドラマだ。主演は『イースタン・プロミス』のヴィゴ・モーテンセン。共演にジェイソン・アイザックス、ジョディ・ウィッテカー。監督はヴィセンテ・アモリンが務める。... [続きを読む]

受信: 2012年1月23日 (月) 01時01分

» 善き人 [佐藤秀の徒然幻視録]
あるいはナチスにおける「善き死」 公式サイト。C・P・テイラー原作、原題:Good。ヴィセンテ・アモリン監督。ヴィゴ・モーテンセン、ジェイソン・アイザックス、ジョディ・ウィッテ ... [続きを読む]

受信: 2012年1月24日 (火) 00時04分

» 善き人 / GOOD [我想一個人映画美的女人blog]
ランキングクリックしてねlarr;please click 原作は1981年に52歳で他界した英国の劇作家、C・P・テイラーの遺作となった舞台劇で 2008年製作、海外では2009年に公開済みだけど今頃になってやっと日本公開。 一人の善良な人間が、時代の波にひきずられ、...... [続きを読む]

受信: 2012年1月24日 (火) 00時20分

» 善き人 [だらだら無気力ブログ!]
ヴィゴ・モーテンセン目当てで東京まで観に行った。 [続きを読む]

受信: 2012年1月24日 (火) 00時42分

» 善き人 GOOD [まてぃの徒然映画+雑記]
1930年代、ナチスが台頭してきた頃のドイツが舞台です。大学教授のジョンは、ナチスの圧力によりプルーストを教えることを禁じられる。ユダヤ人の親友モーリスと、ナチスへの悪態をついていたが、自分の書いた小説がナチスの目にとまり、親衛隊の大尉として迎えられる。 ...... [続きを読む]

受信: 2012年1月26日 (木) 23時11分

» 善き人 [映画的・絵画的・音楽的]
 『善き人』を有楽町スバル座で見ました。 (1)スバル座は、今回が初めてということになります。  というのも、これまで同館は、「映写/スクリーンが大きく傾斜がフラット。見づらいことこの上なし」とか、「床が平坦なため前の席に座られるとやや頭が鬱陶しい」といわ...... [続きを読む]

受信: 2012年1月27日 (金) 06時34分

» 映画「善き人」自分らしく生きる [soramove]
「善き人」★★★☆ ヴィゴ・モーテンセン、ジェイソン・アイザック、 ジョディ・ウィッテカー、スティ-ヴン・マッキントッシュ出演 ヴィセンテ・アモリン 監督、 96分、2012年1月1日公開 2008,イギリス、ドイツ,ブロードメディア・スタジオ (原題:GOOD ) 人気ブログラン... [続きを読む]

受信: 2012年2月 6日 (月) 07時46分

» 映画『善き人』を観て [kintyres Diary 新館]
12-10.善き人■原題:Good■製作年・国:2008年、イギリス・ドイツ■上映時間:96分■字幕:渡邉貴子■観賞日:2月4日、ヒューマントラストシネマ渋谷(渋谷)□監督:ヴィセンテ・アモリン□脚本:ジョン・ラサール□撮影監督:アンドリュー・ダン□編集:ジョン・ウィル...... [続きを読む]

受信: 2012年4月 3日 (火) 23時17分

« 映画「ランジェ公爵夫人」 | トップページ | 「ブラック・ジャック・キッド」久保寺健彦 »