「俺の職歴」ミハイル・ゾーシチェンコ
俺の職歴 作品集 ミハイル・ゾーシチェンコ 群像社 |
1895年にペテルブルグで生まれたロシアの作家の短編集。1920年代から40年代までに発表された23作品が収録されています。
どの作品もユーモアとペーソスに溢れた庶民の生活を口語で綴っているのだけれど、ほろ酔いのおっちゃんが語る身の上話に耳を傾けているような味わいがあって、なかなか面白い1冊でした。
決して楽な生活ではないし、背後に影が感じられながらも、語られる物語は徹底して陽気で明るく、こういう切り口だとロシアがぐっと身近に感じられます。
カバーのイラストもなかなかに良い味を出していて、作中にも同じテイストでイラストが載っているんですけど、このイラストにも明確な意味があることが書かれていて、この作品集が多くの人の強い思いと共に出版されていることもまた素敵です。
以下特に印象に残った作品をいくつか紹介。
・「ふろ屋」
ふろ屋を舞台に脱いだ服を保管するための番号札を巡るちょっとしたドタバタを描いたお話。これ、ロシアの話なんですよね?訳文の文体もあるんだろうけど、普通に日本の近所の銭湯の話としても良いような感じだということに驚いてしまいました。こういう風呂文化がロシアにもあるんですねぇ。こういう庶民の生活が垣間見える話って結構好きです。
・「レモネード」
断酒中のおっちゃんがレモネードを注文したらウォッカがでてきちゃったというお話。3ページしかない本当にそれだけの話なんだけど、なんか、ウォッカが出てきてしまったら仕方ないよ、っていう期待を裏切らないダメダメっぷりが最高です。
・「さっさとおやすみ」
ホテルでの散々な一夜の騒動。これ、ホラーにありそうな流れだけど、ホテルの部屋が酷いっていうだけのお話。実際にこういうところが割と多かったんだろうね。最後が爽やかなのが良い。
・「証明写真」
撮ってもらった証明写真がどう見ても自分のものではないのに、写真屋は間違いを認めないし、警察は同一人物の写真ではないからと言ってそれを受け取ってくれないという物語。
これが一番面白かった!カフカ的な不条理を短い中にギュッと凝縮したような作品で、最後も綺麗に落ちていてかなり好きなお話です。
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